グラスの底を覗く楽しみ。

⾒えないところにこそ凝る江⼾の粋

江⼾時代、贅沢を禁じる「奢侈禁⽌令」が出され、着るものが厳しく制限される中、なんとかしておしゃれを楽しみたい⼈々の間で⼤流⾏したのが、裏勝り、すなわち⼀⾒地味な⽻織の内側に豪華な裏地を忍ばせることでした。隠れたところ、⾒えないところにこそ、⼼を尽くす。そんな江⼾の粋は、⽇本⼈特有の美意識として今も脈々と受け継がれています。

たとえば、江⼾切⼦の底に刻まれた紋様もその⼀つ。今回は「グラスの底を覗く楽しみ」をテーマに、これまであまり語られてこなかった江⼾切⼦の⼀⾯をクローズアップします。

⾊とりどりの美しさはまるで花⽕

江⼾切⼦というと側⾯の紋様ばかりが注⽬されがちですが、実は底⾯にも装飾が施されているのをご存知ですか。ヨーロッパから伝わったカッティング技法を⽤いて底の平⾯部分に刻まれ、グラスを傾けた際や飲み物を飲み⼲した際などにちらりと覗くその紋様は、華やかな側⾯の紋様とはまた違い、隠れた粋といった趣があります。
中でも代表的なのが、「底菊」と呼ばれる、底に刻まれた菊の紋様。菊は⽇本⼈にとって⾮常になじみ深く、お酒を注ぐと花が浮かんでいるように⾒えるその意匠は初めてお使いいただく⽅に江⼾切⼦の魅⼒を体感してもらうのにもおすすめです。太武朗⼯房では、底菊以外にも個性豊かな紋様を底にあしらった江⼾切⼦を多数取り揃えており、豊富なカラーバリエーションも相まって、その⾊とりどりの美しさはまるで打ち上げ花⽕のようで圧巻です。

万華鏡を思わせる幻想⾵景

また、前述の底菊よりもさらに繊細な紋様のパターンとしてますます煌びやかな雰囲気を醸し出すのが、江⼾切⼦の伝統的な紋様であり、縁起がよいとされる菊繋ぎ紋(不⽼⻑寿)や蜘蛛の巣紋(幸せをつかむ、待ち⼈が来る)などが底に刻まれたグラスです。
いずれも熟練の江⼾切⼦職⼈による⼿のこんだカッティングが施されており、光の屈折具合によって覗くたびに万象に変化するその表情はまさに万華鏡のよう。酔いが深まるとともに、⼿にする⼈をより幻想的な世界へと誘います。

グラスの底から広がる世界

そして、こちらのグラスは、底の部分に伝統紋様を刻むのではなく、ゆるやかなR状に削ることで、底から覗く景⾊はあたかも⿂眼レンズのような⼀⾵変わった⾒え⽅に。愛する⼈やお気に⼊りのモノ、記憶にとどめたい景⾊など、丸く⼩さなスクリーンに何を映し出すかはその⼈次第。鮮明ではないからこそ、それが逆に印象的な絵となって、⼈の⼼に深く刻まれていくのです。